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連載 ラグビーワールドカップ奮闘記(12)

「ラグビーワールドカップ奮闘記」
〜ひたむきにひとつひとつ心をこめて〜
元ラグビー日本代表テクニカルスタッフ 村田祐造

『第三章 苦闘するジャパンに見えた光』

    連載 第12回!

     ●ゲームプラン「ビルディングビーバーズ」

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日本代表の二つめの課題は、
ターンオーバーからの失点であった。

攻撃中にターンオーバーを
食らってトライされるケースが非常に多い。

リードされていて時間がなくなってくると、
焦りが生まれてくる。

やけくそになって自陣から攻め始めるので
余計にターンオーバーからトライされるケースが増える。

それで実力以上の大差で負ける。

「敗者のネガティブスパイラル」だ。

日本代表の春のテストマッチは、
このパターンでほぼすべてのゲームに惨敗した。

例外は、イングランドA代表との第一試合であった。

前半から力ずくで攻めてくるイングランドA代表に対して、
日本代表は粘り強いディフェンスで凌いだ。

相手のラックからターンオーバーしたボールを
元木由記雄選手がスペースにパスして、

広瀬佳司選手が裏へキック、大畑大介選手が
それを拾ってそのままトライした。

日本代表は、ディフェンスの粘りからボールを奪い、
ターンオーバー時にできる一瞬のチャンスを
ものにしてトライを奪ったのだ。

前半42分まで10対6でリードしていた。

その試合も結局負けてしまったが
スタッフの我々も選手も一番手応えを感じた試合だった。

日本代表チームが、残り20分をリードして迎えることができれば、
焦りだすのは敵のチームだ。

最低でも僅差で喰らいついた状態でいたい。

点差が開くと「敗者のネガティブスパイラル」にはまってしまう。

日本代表は強い相手にも僅差で喰らいついていって、
まず試合を造ることが必要なのだということがはっきりとわかった。

私は、「ビルディングビーバーズ」というゲームプランを考えた。

ビルディングビーバーズとは、後半の勝負どころまで
「試合を造る」ためのゲームプランだ。

ダムを造るビーバーのように勝利への土台を築く。

ビルディングビーバーズのポイントは以下。

○タックルが得意な選手を先発で起用する。
ディフェンス重視。

○リスクを減らす。
○キックを使って敵陣に行く。

○陣地を取るためにキックオフとドロップアウト重視。
○PKは、射程距離圏内ならばすべて狙う。

○中盤から敵陣までは3次程度の
ショートフェイズでトライを狙う。

○停滞したラックが出来たら、ドロップゴールもしくは
インゴールにハイパントかグラバーキック。

必要以上の連続攻撃は避ける。

なぜなら、過剰な連続攻撃はターンオーバーされて一気にトライ、
もしくは陣地を大きく返されるリスクがあるからだ。

DGが成功すれば3点。失敗しても相手のドロップアウトだから、
また敵陣で攻撃を開始できる可能性が高い。

インゴールへのキックは味方が押さえれば5点。
相手が押さえたとしても相手のドロップアウトだからリスクは低い。

ディフェンスで粘ってターンオーバーからトライを狙う。敵陣にへばりつく。
時間を潰す。リスクを減らす。PGとDGで細かく加点していく。

ラグビーはある意味陣取りゲームだ。

陣地を確保していくことが、もっとも失点のリスクを抑え
得点のチャンスを広げていく。

15人制のラグビーは、こちらが加点すると相手のキックオフで
試合が再開されるルールになっている。

そのため、得点したチームは必ず自陣に戻らされて、
失点したチームにしばらくチャンスが訪れる仕組みになっているのだ。

ゲームが競った展開になるようにルールが考え抜かれているのである。
だからこそ、加点した後のキックオフの受けは、非常に重要なセットプレイになる。

このプランをどう考えるか。

スタッフ会議に提案する前に選手の意見を探ってみた。
前回ワールドカップに出場している大久保直哉選手に聞いてみた。

村田  
「〜というようなプランなんだけど。どう思う?直弥?」

大久保 
「あー。うーん。確かに。つまんないラグビーになるかもしんないけど。
それしか勝つ方法がない気がしますね。」

村田   
「そうだろ。でもワールドカップで勝てば全然つまんなくないよ。
最高に面白いよ。日本中ひっくりかえるよ。これいけそうじゃない?」

大久保 
「うん。いけそう。でもどれだけそれを共通イメージとしてチームで共有して、
徹底して実行できるかが問題なんですよ。」

村田  
「うん。そうだね。そのお膳立てをするのがスタッフの仕事だよね。
向井さんに提案してみるよ。」

気をよくした私は広瀬佳司選手にも相談した。

村田  
「かくかくしかじか。どう思いますか?広瀬さん。」

広瀬  
「それがチームの作戦として監督さんから提示されれば、
その通り僕は動きますよ。」

アンドリュー・ミラー選手にも相談した。

村田  
「かくかくしかじか。どう?アンディ?」

アンディ 
「君の言いたいことはよく分かったけど、僕の考えは完全に正反対だな。」

村田   
「え?どういうこと?」

アンディ
「相手はスコットランドだろ?キックを使ったら相手にとってはイージーだよ。
オーストラリアは暑いんだ。
あいつらが疲れ果てるようにずっとボールを継続して連続攻撃するべきだよ。」

村田
「でも、それじゃこっちが先に疲れちゃうよ。
あいつらのほうが個人はデカくて強いんだから。
ジャパンはディフェンスではコンタクトは避けられない。
だから体張らなきゃいけないけど、攻撃ではキックで敵陣にへばりついて、
PGとDGで点を稼いでコンタクトを避けるべきなんじゃないかな。」

アンディ
「そうかもしんないけど。とにかく私の意見は君の考えとは正反対だ。」

村田  
「……」

日本代表の司令塔アンディと考えが正反対ではどうにもならない。

私はへこんだ。

がっくりきた。


次回へ続く・・・

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